「家族の幸せな未来を、どんなことをしても守りたい」。そういう人のために「保険」がある。言葉に出しては言わないが、奥住はずっとそう思い続けている。目に見えない安心を、保険を通して提供したい。
ここは八幡町。バラが描かれた看板の店舗がある。一見、何のお店かわかりにくい。そのお店の名はヴィータローザ、バラ色の人生という意味。ますますわかりにくい。カウンターで少し猫背気味にパソコンに向かっているのは代表の奥住直人、42歳。少し早口なのが玉に瑕。元々システムエンジニアだった彼は3年前にレーシック手術をしたという。メガネから開放されて、とても親しみやすい雰囲気になったと近所のお客さんが言ってくれたらしい。前置きはともかく、ここは生命保険のコンサルティングを行う会社だ。モノは売っていないが、現実に取り扱うのは保険商品。売り込んで売れるものではない。だから彼の主たる役割は「相談に乗ること」だ。だからこの店には、ちょくちょくと近所の主婦やご夫婦、初老の男性などが訪れて、世間話のように相談をしていく。当たり前だがお金を取るわけではない。でもその相談の90%は、彼の利益につながらない。いや、95%かもしれない。例えば、なんとなく「お金に強い」と思って相続の相談を持ちかける人もいるし、パソコンの操作を聞きにくる人もいる。ある主婦は、車の買い替えの相談をする事も。そんな便利な奥住は単なる「いいひと」なんだろうか?もしかすると、その瞳の奥で何か儲けのネタを商魂たくましく考えているのだろうか?しかしそんなそぶりは見せない。いいのだろうか?「それでいいんです」と奥住は言う。
残念ながら、人は生きている限り心配事が絶えない。子供が生まれて喜ぶかたわら、父親は「自分にもしものことがあったら」と考え、その子供が成長して自動車免許を取ったら「もし事故を起こしたら」と考える。そのほか数え切れない不安に対する備えとして「保険というシステム」が存在する。先のことは誰にもわからないから。この先の景気やいつ起こるかも知れない災害、または日本の社会システムがどうなっていくか?誰にもわからない。とはいえ暗い顔もしてられない。前向きに生きて行きたい。だから人は、安心を求める。でも、なかなか偉い先生には気軽に相談できないから、自分より少しだけ詳しそうな街の専門家に相談する。そうすることで自分を納得させる、すると不安が解消される。そんな役割、つまり奥住の存在自体まさに保険と同じようなものだ。だから彼の仕事は「街の人の相談にのること」。今日も誰かが奥住と話しているのが見える。彼の利益につながらないのかもしれないが、彼はうれしそうだ。それが自分の役割だとわかっているから。
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