どの街にも、それぞれ特有の漂いがあります。駅前に降り立って、ぶらぶらと歩を進めるうち、それまで何十年間、思いだしもしなかった懐かしい顔、社会的な事件、私的な出来事などが不意に頭に浮かんでくることがあって、それはやっぱりその街特有の漂いに刺激されたものが、頭のなかの抽斗(ひきだし)から出てくる仕掛けになっているのだろうかと勝手に推測するのです。
「風景」と「想い」が合体して「情景」となる。そのことを、この仕事を通して、ひとはなぜ散策するかの答えとともに再認識させられているしだいです。
だれにも、もう一度会いたい、と思うひとがいることでしょう。風景は、そのひとの面影を抱き込んで、情景になる──。そんな心の作業を意識した散策エッセイ、そうも考えています。

今井 野二夫1946年福井県生。中央大学経済学部卒。
雑誌、書籍の編集を歴任。30歳を過ぎてフリーランスとなり広告の製作業務等に携わりながら今日に至る。
東京都在住。
Fさんとは東京文京区の湯島天満宮で知友となった。その後、Fさんは不妊治療を経て、40歳で最初の我が子を授かった。「どんどん不安の時代に入っていきそう。世の中がどうなるか・・・・・」出産の挨拶に、当方の出先まで尋ねてきてくれたFさん……
60年代のある日、ラジオの深夜番組から、その歌は流れてきた。歌詞を持たない、スキャットだけの歌で、透明感のある美しい歌声に聴き入った。それが番組のテーマソングで、曲名は「夜明けのスキャット」、歌い手の名はユキサオリ、と知ったのは……
どの街にも、それぞれ特有の漂いがあります。駅前に降り立って、ぶらぶらと歩を進めるうち、それまで何十年間、思いだしもしなかった懐かしい顔、社会的な事件、私的な出来事などが不意に頭に浮……
かつてフジテレビで放映された連続ドラマ「古畑任三郎」のワン・シーン。刑事に扮した田村正和さんが、正直者ほど嘘がうまい、とおなじみの口ぶりで語る場面が記憶に残っている。セリフまではお……
大國魂神社の参道、ケヤキ並木沿いのテラスに座り、しばらく行き交うひとたちを見て過ごした。そのうち若者たちのジーンズとTシャツのシンプルな装いから、フッと思い浮かんだことがあった。……
ある学者によると、人間の寿命は、生物学的には(医学や食物学などの助けを借りなければ、といった意味に理解している)40歳ていどだという。それ以前に、人間の骨は50歳で限界を迎えるという……
また新しい一年がスタートした。今年2010年は戦後6回目の寅年。寅年は夏に3年に1度の参院選がおこなわれる年で、翌年春には4年に1度の統一地……
レストランの格付け本「ミシュランガイド京都・大阪版」が刊行された。2年前に東京版が出たとき、発売からわずか4日間で初版12万部を完売したという報に驚かされ、と同時に、和食や寿司など日……
あいつもいい歳になったんだよなあ、と思いつつ、Sくんの年齢を指折り数えてみた。へー、もう30歳を超えているんだ──。それは東京都議選のあった7月12日のことになる。その朝、夏の高校野球西東……
いまの東京都を抱く、武蔵の国の中心は、府中であった。江戸・東京の歴史は徳川家康の江戸入城から数えてもまだ400年ていどにすぎないが、この府中の街はそれよりもはるかに長い年月、「武蔵国」の主都としての歩みを刻んできた。武蔵国とは……
その日、大國魂神社の境内に建つ慰霊碑と向かいあったことが、今回の原稿の内容と深くかかわったようだ。太平洋戦争における日本軍兵士の戦死者は、およそ230万人。大國魂神社の慰霊碑は、この手のものとしてよく見受けられる一枚岩の仕上……
武蔵野は吹き晒しの平坦地であった。とりとめもなく続く原野の広がりを、鎌倉時代の佳人はこう詠んだ。「武蔵野は月の入るべき峰もなし 尾花が末にかかる白雲」(「続古今和歌集」大納言通方)……